そもそも「ネツゲン」という言葉がなぜこんなにも僕の中で存在感を持つようになったか。その記憶から振り返る。
数年前、僕は映画会社で配給事業とシネコン番組編成の責任者をしていた。ある日「ぼけますから、よろしくお願いします」の話を聞く。とんでもない人気で内容も素晴らしいと。その後「なぜ君~」「香川1区」で香川の劇場で異常値が出る。映画プロデューサーからもいつも話題に出てくる。なんなんだネツゲンは…僕の中でフツフツとネツゲンの存在感が高まっていった。
あれから数年経ち、ナカチカピクチャーズを立ち上げ配給に特化した事業を開始する。そこで、あるドキュメンタリー作品のイベントでゲストスピーカーとしてネツゲンの大島さんをお招きする話になった。「そうね、いいアイデアだね」だなんて冷静な口調で言うものの心のザワザワは止まらない。もはや僕は完全にネツゲンのイチファンだった。
こうした経緯で大島さんとの初のコラボが生まれた。神様ありがとう。そしてその後、あれよあれよという間にナカチカピクチャーズでネツゲン配給をすることになった。本当に神様ありがとう。それが「NO選挙,NO LIFE」だ。
しかしいざ「NO選挙,NO LIFE」プロジェクトの詳細を聞くと諸々ハードルの高さに悩んだ。公開のタイミングがとても近かったということ、宣伝マンが足りてないということ、などなど。ひとまず本編を見ていろいろ方策を考えようということになった。
……本編を見てぶち抜かれた。まず「ぶち抜かれPart1」畠山さんを知っている人、大好きな人はきっとなんの問題もない、完璧な内容だと思った。驚いたのはそっちではなく、「畠山さんを知らない人」に与えるであろう印象がまるでワンピースやスラムダンクから受ける「勇気」や「努力」のそれそのものだったのだ。今年46歳の僕はまず最初に「パイセン…勘弁してくださいよ」と思った。それを人生かけてやられちゃうと僕はもう何も言えない。前職でも忠実なる取締役として事業構造改革が~とか内部統制が~とか言いながらコスト効率化をガチで推進してきたしその上で事業結果を出すためにアイデアを絞ったしその一方で出口戦略と称し事業蓋然性が云々とか言いながら失敗の言い訳をしてそれなりの渡り方をしてきた。経験は会社の経営に役立つもので今もなおその培ったものはなんらかの形で活かされている。しかしだ、しかし、たいして歳の変わらない中年のおじさんが見事にコスパタイパガン無視して自分を貫き通すのを見せつけられるともうその姿は完全にルフィにしか見えない。いや、実際に畠山さんと話せば無邪気に毎日を一生懸命生きてる「普通の人」にすら思える。本来ルフィは向こうの人だ。そのルフィが現実世界に出てきて僕の目の前でステッカーを熱く語りアクリルスタンドを愛でてる。だから畠山さんを見てるとそのギャップにクラクラするのだ。向こうの人であってほしい。こっちにいると僕はもうなにも言い訳ができなくなるじゃないか。「一生懸命」という言葉をつかえなくなってしまうじゃないか。そんな人生、全てのオッサンたちに見せたくなるに決まってるじゃないか。
次に「ぶち抜かれPart2」本編のラストだ。前田監督、なんで全部いろいろと回収しちゃってるんですか?執念が、信念が、素粒子レベルで奇跡を産んで、見える物語となって我々の前に立ちはだかる。もうタマラナイ。立候補者に最大限の誠意をもって立ち回る畠山さんに最大限の誠意をもってカメラを向ける前田監督の血みどろの誠意合戦が最終的に笑って泣ける大作となって押し寄せてくる。僕はパソコンで見ていたので周りを気にせず自由に反応しながら楽しんだ。「おいおい」とか「なんだそりゃ」とか、大いに笑いながら考え込みながら映画を噛みしめた。そしてラストは思わず「すっげえ…」と唸ってしまったのだ。
本編を観てますます「我々全員が楽しんでこの映画を届ける!畠山さんのように全力で走る!」とチーム全員に気合が入ったのを覚えている。ハードルがハードルに思えなくなってきたのもまたよく覚えている。こうして本作のプロジェクトはメンタルフルギアで始まったのである。
余談だが、応援上映というものがある。戦う主人公に対して映画館の中で声援を送ってみんなで感動を共有するというものだ。実際に僕が周りを気にせず笑って唸ったように、走り回る畠山さんにツッコんで笑って泣いてみんなで語り合いながら本作を味わう会をどこかでやりたいなあ、と思っている。
あれからひと夏が過ぎ、いよいよ公開。ここまで戦い方を悩み議論しながらやってきた。公開まで時間がない?畠山さんを見ろよ、ほらまたなんも言えなくなるじゃねーか笑。そんな会話をしながら、候補者に、畠山さんに、前田監督に、大島Pに、ネツゲンに、そして全てのファンのみなさんに、ほっこりした深い愛情をもって営業チームも宣伝チームも一生懸命動いてくれた。まだまだできることはたくさんあったのだろうけど、あの事件の新宿プレミアが即完になった瞬間にみんなで喜んだのは絶対に忘れない。
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みんなで食事をしていた際、僕はある相談を大島さんにした。それは極めて個人的で、でも映画人としては誰もが一度は夢見るであろうことだ。大島さんは一言「やっちゃえよ」。え?と思った。もっと緻密に冷静に準備を経て取り組むものだと思っていた。少なくとも業界にいる以上その難しさをそれとなく知っているつもりだった。「やっちゃうんだよ、撮っちゃうんだよ、現場に行って」。それを語る大島さんの目からは、行動第一のその言葉とは裏腹にとても思慮深いものと高い視座を感じた。そうか、行動と思想か。それを合わせて「どうしても『今』、誰よりも考えて誰よりも動け」か。なるほど。それはまるで畠山さんじゃないか。
そんなことを思いながら感慨深くハイボールを口にする。ふと横を見たら畠山さんがまたアクリルスタンドについて無邪気に語ってた。前田監督も楽しそうだった。一緒に語り合ううちのメンバーも楽しそうだった。素晴らしい夜の会を噛みしめて、我々はまた怒涛の取材ラッシュと劇場営業に走る。ほんの少しでも畠山さんのようになれるかな、フフフと笑いながら。
いよいよ明日、映画公開。畠山さん、前田監督が最後まで貫いた「誠意」を込めて、わたしたちは「NO選挙,NO LIFE」全力でお届けします。
(ナカチカピクチャーズ 代表 小金澤剛康)
「NO選挙,NO LIFE」2023年11月18日公開