
新藤兼人賞をはじめ数々の映画賞新人賞を席巻した『佐々木、イン、マイマイン』(20)、続く『若き見知らぬ者たち』(24)と、 これまで“現実に抗いながらも何かを掴もうとする若者の青春”を見つめてきた内山拓也監督。彼が故郷の凍てつく冬の新潟を舞台に、居場所とアイデンティティを模索する少年の物語を自伝的作品として描く渾身の一作『しびれ』が、第26回東京フィルメックス・コンペティションに選出されました。
11月22日(土)第26回東京フィルメックスでワールドプレミアが行われ、上映前の舞台挨拶に、北村匠海、榎本司、加藤庵次、穐本陽月、内山拓也監督が登壇しました。
「プレミア上映では大地を演じた4人のキャストと立ちたい」という内山監督の希望が叶った形となった今回の舞台挨拶。監督は有楽町朝日ホールにて満席の会場を見渡しながら「たくさんのイベントがある中で、映画を選んで、来ていただいてありがとうございます」と万感の表情。自伝的作品となった本作について「人生を歩む中で『自分は誰なのか』『どこから来たのか』『これからの人生をどういう風に歩んでいくか』といったテーマに向き合わなければいけない瞬間に至りました」と製作の経緯を振り返り、「これまでの監督作『佐々木、イン、マイマイン』『若き見知らぬ者たち』が分かり得ない現実や抗えないものとの対峙に重きを置いて描かれていたのに対し、今回はそういった経験を経て、過去が未来を決めるわけではない、これからのこと、未来の話をしたいという思いで作品に向き合いました」と明かしました。
監督の思いをどう受け止めたのかについて聞かれた北村は「僕にとって、内山監督はいつか必ず一緒にやりたいと思っていた人でした。そんな監督が“人生で一番最初に書いた脚本”であり、監督からの『一緒にこの映画で心中してくれ』という言葉に胸を打たれ、この映画を誰よりも愛そうという思いで撮影に臨みました」とオファー時の心境を述懐。加えて「監督は自分を削って作品を作っていく中で、日々目の前で巻き起こる僕たちの芝居も、監督が1番感じて涙し、時には笑ったりする姿を僕は肌で感じていたので、自分は絶対に監督が言うことに“ノー”を出さないでいよう、と決めました」とコメント。
監督は、幼少期から少年期の大地を演じた榎本、加藤、穐本の起用理由について、顔が似ていることよりも、心の窓や目から宿るものを重視したそうで、「それぞれの“目”を通じてこの大地という役に向き合える人であれば、たとえ顔がにていなくても構わないという考えで最終的な選定を行いました」と吐露。実際に決まった3人に対しては「自分が意識していたのは“子供扱いをしない”ということ。彼らを“子役”という視点ではなく、北村匠海さんと同じような接し方をしました」と述懐します。それに対し、榎本、加藤、穐本は「監督が対等に話してくれるからこそ、演技にしっかり向き合え、大地として意識を持つことができ、時には「こうするんじゃないか」といった提案もできました」(榎本)、「自分の中で大地がよく分からなくなった時があったんですが、監督から『大地になっている自分の気持ちが大地の気持ちだよ』と言ってもらって、すごくいい演技ができたと思いました」(加藤)、穐本は「とても優しくて、いつも僕の目線に合わせて話を聞いてくれて、学校の話や好きなラーメンの話をしてリラックスできました。大好きです!」(穐本)とそれぞれが監督との心温まるエピソードを明かします。
これを受けて、北村は「今もこうして笑いも起こるようなかわいらしい一面のある3人ですが、とにかく過酷な撮影にチャレンジしていて、スクリーンの中に映る3人は紛れもなく大地で。目の前に起きていること、考えていることを言葉にしたいけれどできない現実に体当たりで向き合っているそれぞれの姿に僕は涙しました。彼らからバトンを受け継ぐ“4人目の大地”として役をやり遂げねばと。そして最後はそのバトンを監督に返すような気持ちでした。監督は“5人目の大地”だと思っています」と話します。
最後の挨拶で内山監督は「思いとしては、“光の中へ”“前へ”という気持ちで締めくくった映画です」とコメントし、舞台挨拶は幕を閉じました。
『しびれ』は2026年劇場公開。
『しびれ』
監督・原案・脚本:内山拓也
出演:北村匠海 宮沢りえ
榎本 司 加藤庵次 穐本陽月
赤間麻里子 / 永瀬正敏
企画・制作:カラーバード 製作幹事・制作プロダクション:RIKIプロジェクト 配給:NAKACHIKA PICTURES
